第1章 サンタクロース
“髪の長い子が好きなんだ”
その言葉通り、亮太が連れて来たのは栗色の長い髪がよく似合う女だった。
カップルや女性客で賑わう店内。
その店内に、テーブルを挟み向かい合う3人の男女。
普段であれば、その姿も街の風景の1つとして何の違和感もないだろう。
しかし、今日はクリスマスイブ。
3人のまとう空気は重苦しく、それが別れ話の最中である事は当事者以外の目にも明らかだった。
「…今、“3ヶ月”なんだ。」
亮太はそう申し訳なさそうに頭を下げる。
そんな亮太とは対象的に、隣の女は顔色一つ変える事なくじっとこちらを見つめていた。
これみよがしに腹を撫でる女の姿。
店内に流れるクリスマスソングが、頭の中をぐるぐると駆け巡っていた。
「俺達、結婚するから。
だから…もうお前とは会えない。」
そう話す亮太の顔を直視する事が出来ない。
こんな日がくるとは夢にも思っていなかった。
少なくとも去年の今頃は2人で手料理を食べながら笑い合う、どこにでもいる普通の恋人同士だったはずだ。
一体、どこで間違えてしまったのだろう。
ため息をつき、テーブルに置かれたティーカップへと手を伸ばす。
中のコーヒーはすっかりと冷めきってしまっていた。