第9章 甘い嘘●
しかし今夜は眠れそうもない。
遅くなると言っていた佐久間さんはまだ帰って来ない。
少しお酒でも飲めば眠れるだろうか。
こんな時間からお酒を飲むのには少し抵抗があるが、今夜は心がざわつきを増すばかりだ。
まるで佐久間さんに初めて出会ったあの日のよう。
あの日もまた、目には見えぬ何かに心が支配されてしまいそうな…そんな気分だった。
寝室を出てキッチンへと向かう。
明かりをつけ、冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出した。
プルタブを開ける音が静かな部屋に響く。
乱れた心を落ち着けようと、私は缶ビールを一気に飲み干した。
早く寝室に戻り、眠ろうか。
そう思うが、すっかり目が覚めてしまっていた。
ふとリビングを見ると、薄暗い部屋の中にあるテレビが目にとまった。
キッチンの明かりが画面に反射し、まるで光を放っているようだ。
…少しテレビでも観て過ごそうか。
テレビは時間を潰すのにも丁度良い。
ただ何も考えずに画面を眺めていれば、そのうち眠たくなるだろう。
このまま眠れぬ夜をベッドで過ごすよりはマシだった。