第9章 甘い嘘●
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頭の中では何度もthe IVYの『insomnia』が流れていた。
数時間前まで見入っていたドラマのエンディング曲だ。
ドラマの余韻にひたって…という訳ではない。
相変わらず私の頭の中には彼女がいた。
小松加奈。
「the IVYの『insomnia』だって。」
携帯電話を片手にそう、ぶっきらぼうに答える彼女の顔が頭に浮かんでいた。
今頃彼女はどうしているだろう。
彼女もドラマを観ていると言っていたが、今夜は自宅で過ごしたのだろうか。
村瀬先生と会うのはいつも平日の夜だ。
休日は婚約者と過ごす村瀬先生の都合なのだと思う。
今日は木曜日だ。
もしかすると彼女は今頃、村瀬先生と…。
そう考え始めると眠気など吹き飛んでしまった。
時計を見ると午前0時を回ったところ。
もし村瀬先生と会っていたとしても、さすがにもう自宅へ帰っただろう。
確かめる術はないが、何とか落ち着かない心を静めるべく頭から勢いよく毛布を被った。