第9章 甘い嘘●
そのままにしてあったアパートは契約更新をしなかった。
春休みにでも荷物を全て運んでこようと思っている。
ベッドや冷蔵庫など、必要の無い物は全て手放すつもりだ。
これからは佐久間さんと暮らすこのマンションが自宅になる。
不安はない。
アパートを出るよう勧めてくれたのは他の誰でもない佐久間さんだ。
私達は恋人。
こうして確かな関係があるのだから、安心して引っ越しも出来る。
ただ一つ気になっていたのは、私が立ち入る事を禁じられているあの部屋だった。
以前高杉さんがマンションを訪ねて来た時、彼は当たり前のようにあの部屋へと入っていった。
高杉さんには許されていて、私には許されていない事…。
自宅の中に入室禁止の部屋があるというのは少しおかしな話なのだが、今のところ何の不便さも感じてはいないのだから、さほど問題でもない。
マンションはもともと佐久間さんの持ち物だ。
佐久間さんの自由に使うのが当然の事とも思えた。