第9章 甘い嘘●
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気が付けば、3月も半ばを過ぎようとしていた。
桜舞う季節。
今年も数百人の生徒を見送った。
毎年この季節は別れの寂しさよりも、“手を離れた”という安心感の方が大きかった。
卒業式で泣いた事などない。
…今年もやっと終わる。
そんな肩の荷がおりたような安堵感だ。
しかし、そんな私の心境も今年は大きく違っていた。
それは…小松加奈。
今のところ“彼女”も進級出来る見込みではある。
あれから私達はとくに立ち入った話をしてはいない。
相変わらず村瀬先生との関係は今でも続いているのだと思う。
「連絡くらいはしてほしい」と注意したにも関わらず、彼女は時々無断欠席をした。
それが村瀬先生とのデートの次の日であるという事はもう分かっていた。
決して口には出さないが、私は彼女が心配でたまらない。
“入れ込み過ぎないようにね”
そう言っていた愛美先生には悪いが、私は彼女の人生にとことん付き合うつもりでいた。