第9章 甘い嘘●
「本当はこんな事言いたくなかったけど…私も20代の時は橘先生みたいに一人の生徒に入れ込んじゃってね。
特に恋愛の相談とかだと、こっちも感情移入しちゃうじゃない。
でも、ある日気付いたんだ。
まともに聞いていたら身が持たないって。
16歳の女の子が言う“好き”なんて信用出来ないんだから。
こっちがダメならあっち。
そんな自分本位の恋なの。
だから橘先生も気を付けてね。」
「いえ、私は…」
そうは思わなかった。
私の知っている“16歳の女の子”が言う“好き”はとてもとても重く苦しいものだ。
私自身、経験があるわけではないが、16歳というのは何にでもがむしゃらになれる年齢だと思う。
勉強。部活。そして恋愛。
だからこそ、回りを見る事もなくただひたすらに恋をする。
愛されたいよと叫びながら。
私は彼女の恋を軽視する事など出来ない。
…例え愛美先生が何と言おうとも。