第9章 甘い嘘●
「でも、良かったね。
彼と無事“結ばれて”。」
「あ…はい。」
愛美先生には先日の佐久間さんとの“出来事”を話した。
さすがに早朝であった事は秘密だが、あんなにも相談にのってくれた愛美先生にはきちんと報告をしたかった。
生まれて初めてデパートのコスメカウンターへ行った事ももちろん話した。
フルメイクの私の顔を見て、愛美先生は「綺麗になったね。」と屈託のない笑顔を見せてくれた。
「でも橘先生、今日はちょっと元気が無いね。」
「そう…ですか?」
「うん。せっかく彼とうまくいってるのに。」
愛美先生の言う通りだった。
今日の私は“心ここにあらず”とでも言うのだろうか。
正直言って、楽しくお酒を飲みながら恋の話…という心境ではない。
それは数日前の“彼女”との出来事が心に引っ掛かったままになっていたからだ。
小松加奈。
彼女の「大っ嫌い」という言葉は、村瀬先生への底知れぬ想いの裏返しに感じていた。