第9章 甘い嘘●
閉店後の喫茶店の前には一台の車が止まっていた。
運転席にいたのは見知らぬ男。
薄暗い店内から現れた母は、そのまま車の助手席へと乗り込んだ…。
あまりにも似通った状況。
しかし、車の運転席にいたのは彼女の“恋人”である村瀬先生だ。
私の時とは関係が違いすぎる。
「付き合ってもう10年近く経つのに、今でもああやって休日にわざわざ車で職場まで迎えに行ってデートしてるんだよ。
ウケるよね。」
彼女は吐き捨てるようにそう言った。
頬杖をつき、視線を落とす。
いつもよりも大人びた顔。
普段はしていない化粧のせいだったのだと今さら気付いた。
「ねぇ、どうして村瀬先生と…“あの人”の事をそこまで知ってるの?」
“婚約者”ではなく“あの人”と言ったのは私なりの気遣いのつもりだった。
彼女は村瀬先生と婚約者の事をどこまで知っているのだろう。
そしてそれは誰から聞いた事なのか。
まさか村瀬先生の自宅から後を追って来た…というわけではないだろう。