第9章 甘い嘘●
呼び止めたからには、それ相応の理由があった…という訳ではない。
ただ反射的に彼女の姿を追い、名前を呼んでしまっただけだ。
しかし、彼女の事が気がかりであった事は確かだ。
私の頭の中には常に彼女がいる。
それは去年の9月。
学校の屋上でタバコを吹かす彼女を初めて見たあの日からだ。
あの日から、彼女は私の中にずっと居座り続けている。
そして数日前、彼女に言い放ってしまった言葉。
“そんなのおかしいよ”
私は彼女の恋を…彼女自身を否定してしまったままなのだ。
まさかこんな所で会うとは思ってもいなかったが、これはもしかすると話をする良い機会なのかもしれない。
学校では愛美先生の存在もあり、なかなか立ち入った話が出来ない。
こうして学校を離れ、二人きりで一度話をしなければいけないと思っていた。
彼女の本心を聞けるかはどうかは分からないが、少し私に時間をくれはしないだろうか…。