第9章 甘い嘘●
デパートの入り口を出た時だった。
行き交う人の中、見慣れた横顔を見付けた。
長い黒髪に切れ長の瞳。
大きめのピアスが揺れる耳元。
ロングスカートを履いた“彼女”は、私の目の前を足早に通り過ぎていった。
「小松さん?」
驚いた私は彼女の後を追い、呼び止める。
振り返った彼女はいつもよりも大人びた顔をしていた。
「先生何してるの?」
少しうっとうしそうに彼女はそう応える。
不機嫌そうな表情。
あまりの威圧感に一瞬圧倒されかけてしまった。
「私は買い物。」
「ふ~ん。先生も買い物とかするんだ?」
「今日はたまたま…」
「別にいいけど。」
何か急ぎの用事でもあるのだろうか。
彼女はいつにも増してぶっきらぼうだ。
学校以外で私と会うのはさすがに気まずかったのだろうか。
それとも…あの事だろうか。
彼女は苛立ち、早くここから立ち去りたいといった雰囲気だ。