第2章 高校教師
クローゼットの中からブランケットを取り出し、男の背中にそっと掛けた。
今はこのまま眠らせておこう。
朝になればきっと目を覚ますはずだ。
あと数時間もすれば外も明るくなる。
見ず知らずの男と過ごすのは抵抗があるが、一部屋ずつ聞いてまわるよりはマシだった。
部屋の明かりを消し、ベッドへ横になる。
引き戸で仕切られただけの寝室。
天井を見つめながら、大きく深呼吸をした。
その瞬間、ふと幼い頃の記憶がよみがえった。
あれは確か、小学2年生の夏休みの事だ。
近所の公園で遊んでいた私は、1匹の子犬を拾った。
耳のたれた茶色い毛並みのオス犬。
私はすぐさま子犬を抱き上げ、家に連れて帰った。
誰もいない部屋の中、子犬と2人だけの時間。
牛乳とパンを与え、汚れた身体を洗ってあげた。
ひとりっ子の私にとっては、まるで弟が出来たような気分だった。
名前を考え、ボールで遊び、疲れて眠る子犬の横で私も眠った。