第8章 身体の関係●
「ねぇ、橘先生ってネイルしないの?」
「え?」
「仕事柄、手は仕方ないとしても足なら出来るじゃない?」
「私は…今までした事が無いです。」
「もったいない。
そういう所でテンション上げなきゃ。」
そう言って愛美先生は立ち上がると、化粧台の引き出しから何かを取り出した。
それは小さな箱。
愛美先生はふふっと小さく笑うと、私の正面へと腰を下ろした。
「好きな色、選んで。」
そう言って箱の蓋を開けると、中に入っていたのはカラフルなマニキュアだった。
「最近はネイルサロンばっかりで、セルフはしばらくしてないんだけど。」
色とりどりの小さなボトルに、私の胸はときめく。
いつもドラッグストアの化粧品売り場を通る度に横目で見ていた。
私には必要ないと手に取った事すらなかった。
しかし、心のどこかでは憧れを抱いていたのかもしれない。
まるで宝箱のよう。
きっと私の瞳は輝いていたに違いない。