第2章 高校教師
「………手…貸してもらえますか。」
低くしゃがれた声で、男はそう応えた。
まるでため息のようなか細い声。
今にも消えてしまいそうなその声に、私はなぜか親しみを感じた。
痛々しい男の姿に、自分の心情が重なった。
自分と“同じ側”の人間。
この男も私と同じように、無機質なプラスチックの街に飲み込まれた人間なのかもしれない。
「立てますか?」
わずかに上体を起こした男の腕を両手でつかむ。
相変わらず男の身体からは酒の匂いが漂ってきた。
その匂いに混じり、わずかに香水のような香りがした。
男性が好みそうな甘くスパイシーな香り。
男はふらつきながらも何とか立ち上がると、大きく咳き込みながら、私の身体へともたれかかる。
細身で長身の男。
そんな男の脇へと入り込み、不安定な身体を支えた。
「………すみません…2階まで…。」
うわ言のように男はつぶやいた。