第7章 想い
玄関が開く音がした。
佐久間さんが帰って来たのだろう。
コンロの火を消し、慌てて髪の毛の乱れを整える。
犬のように顔をクシャクシャにして「ただいま」と言う佐久間さんを想像し、胸が熱くなった。
これから始まる至福の一時。
1日の終わりに待っているご褒美のような時間。
私は何て贅沢なのだろ。
例え恋人じゃなくとも、こうして二人で過ごせるのだから幸せだ。
そう思えた。
リビングのドアが開く。
「お帰りなさい。」と呼び掛ける。
しかし、そこに立っていたのは佐久間さんではなかった。
「ただいま。また来ちゃった。」
明るい髪色に、まるで海外のモデルかと思わせるほどのスタイル。
手足は長く、顔は小さい。
そんな男の名前は…確か高杉…。
「俺の名前覚えてる?」
「高杉…さん。」
「“高杉さん”なんて固いなぁ。
“誠君”でいいよ。」
そう言って“高杉さん”はリビングのソファーへと腰を下ろした。