第7章 想い
「何だか、その男怪しくない?」
「…え?」
「身元は確かなの?」
突拍子もない愛美先生の言葉に、私は目を丸くした。
今まで考えてもいなかった。
佐久間さんは44歳の美容師…。
そして、昔私の住むアパートの部屋に住んでいた。
今は高級タワーマンションに住み、子猫を預かってもらっている。
嘘のような本当の話。
「橘先生…騙されたりしてないよね?」
「そんな…騙されるような事なんて…。」
「でも、外で会った事ないんでしょ?
こう…第三者の目につくような所で。
そういうのって大事だよ?」
確かに愛美先生の言う通りだ。
私は佐久間さんの事を知らなさすぎる。
それでも、少し舌足らずで穏やかな口調。
顔をクシャクシャにさせる少年のような笑顔。
醸し出す雰囲気は柔らかく、そして温かい。
居心地の良い佐久間さんなら、私はたくさん知っている。