第5章 条件
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「入って。」
佐久間さんに連れられるがまま、部屋の中へと入る。
初めて入るタワーマンションは、まるで高級ホテルのような作りだった。
とは言え、高級ホテルになど行った事がないのだから、全ては私の想像でしかない。
それでも、さすがに玄関の広さには驚いてしまった。
こんな所で佐久間さんは一人で生活をしているのだろうか。
どう考えても単身者向けの物件ではない。
リビングのドアを開けると、子猫が姿を現した。
床を走り回り、慌てた様子でソファーの背もたれへと飛び乗るのが見えた。
「ちょっと待ってね」と優しく話しかける佐久間さんの様子を、首を伸ばしてうかがっている。
「コートだけ脱がせてね。」
そう笑いながらコートを脱いだ佐久間さんの肩へと、子猫は飛び移った。
「ここがこの子の“定位置”なの。」
恥ずかしそうにはにかむ佐久間さんに、思わず笑みがこぼれた。