第5章 条件
気が付けば、車は高層ビルやタワーマンションが建ち並ぶエリアを走っていた。
普段であれば絶対に近付く事のない場所。
経営者や政治家、芸能人などが多く住むとされる場所だ。
どこまでも住む世界が違うのだなと、諦めにも似た感情がわく。
それと同時に、佐久間さんが普通の“美容師”ではないのだという事がなんとなく分かった。
…経営者。
だとすれば、県外への出張も納得出来る。
どちらにせよ、私が隣にいても良い相手ではない。
車はタワーマンションの地下駐車場へと入っていく。
ここが佐久間さんの自宅か。
全てが謎だらけであった佐久間さんの私生活。
知りたかったはずなのに、どこか複雑な心境だ。
知れば知るほど、佐久間さんと私との距離が明白になっていくような気がした。
現にこうして生活レベルの違いを痛いほど感じている。
それでも、佐久間さんへの恋心は変わらない。
こうして時々会えるだけでもいい。
佐久間さんの恋人になりたいとなどという“おこがましい”考えは…ない。