第5章 条件
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佐久間さんの車は大きなベンツの四駆だった。
車の知識など全くない私でも知っている高級車だ。
黒い皮のシートにラグジュアリーな内装。
私のような地味な女が助手席に乗っていい車ではない…。
「ごめんね、遅くなっちゃって。」
「いえ、こちらこそありがとうございます。
子猫…元気みたいで良かったです。」
「もう、すっかり家に慣れたちゃったみたい。
なかなか“ヤンチャ”で可愛いよ。」
「…本当にすみません。」
「謝らなくてもいいよ。
俺も帰って来て猫がいると癒されるしさ。」
そう笑いながらハンドルを握る佐久間さんを、チラリと横目で眺める。
いつもと変わらずオシャレな装い。
コートの中から覗くハイネックのセーターがとてもよく似合っている。
車だけではなく、私はこうして佐久間さんの隣にいる事自体がおかしいのかもしれない。