第5章 条件
単純といえば、彼女も意外と“単純”なのかもしれない。
小松加奈。
放課後の屋上、彼女は愛美先生からもらったというチョコレートを美味しそうに頬張っていた。
「愛美先生って良い奴だね。」
「“良い奴”だなんて言い方やめなさい。」
「“良い人”だね。優しいし、綺麗だし。
先生とは違うね。」
「どういう意味?」
「別に先生が“無愛想”とは言ってないよ。」
そう皮肉を交えた冗談を言いながらも、彼女の顔にはいつもより笑顔があった。
甘い物につられ、すっかり愛美先生に心を許したのか。
いや、きっとそれだけではない。
愛美先生には人としての魅力がある。
卑屈で無愛想な私とは違い、まとう空気はどこか愛にあふれている。
彼女にとっては私よりも愛美先生の方が何かと相談しやすい相手かもしれない。