第5章 条件
「小松さん、あなたもこっちに来て飲んだら?」
愛美先生はそう優しく声をかけた。
これ以上ベッドの上で飲食をさせるのは、さすがに行儀が悪い。
彼女はしぶしぶベッドから降り、椅子へと座る。
手にしていた携帯電話を制服のポケットにしまい、マグカップを両手で持った。
「…甘い。」
一口飲み、彼女はそうつぶやいた。
そんな彼女を見て、愛美先生はふふっと笑う。
「あなたには“ココア”。甘い物好きでしょ?」
「…どうして分かるんですか?」
「昨日もクリームパン食べてたよね。」
彼女はハッとし、テーブルの上に置いた食べかけのクリームパンを見つめた。
愛美先生の言うとおり、彼女は昨日もクリームパンを食べていた。
その姿が何だかとても美味しそうに見え、私も今日は弁当を作らずにクリームパンを買って来たのだ。
「保健室でココアを飲んだ事は、他の生徒に内緒だよ。
ここにいる三人だけの秘密。」
“三人だけの秘密”
その言葉には妙なくすぐったさがあったが、彼女は愛美先生の顔をチラリと見ると、深くうなずいた。
この場所が…保健室で過ごすこの時間が、彼女にとって居心地の良いものになってほしい。
そう心から思った。