第5章 条件
「手伝いますよ。」
「ううん。橘先生は座ってて。」
「いえ…」
「いいの。座ってて。」
戸棚からマグカップを取り出し、愛美先生は優しく微笑んだ。
言われた通り、私は椅子へと腰を下ろす。
チラリとベッドの方を見ると、相変わらず彼女は携帯電話を片手にパンを頬張っていた。
とくに会話も無く、コーヒーをいれる音だけが保健室の中に響く。
遠くからは生徒達の笑い声が聞こえる。
昨日もこうして無言のまま昼休みは過ぎていった。
テーブルで昼食をとる愛美先生と私。
ベッドに座る彼女。
狭い保健室の中、2対1の状況が生まれる。
私から話題をふればいいのだが、昔からそういうのはどうも苦手だ。
一対一であれば感じる事のない妙な緊張感。
もしかすると彼女にとってはこの保健室も居心地の良い場所ではないかもしれない。
「おまたせ。」
「ありがとうございます。」
愛美先生はコーヒーの注がれたマグカップを3つ、テーブルの上へと置いた。