第5章 条件
「またベッドの上で食べるの?」
愛美先生がそう笑いながら保健室へと戻って来た。
彼女は気にする事なく菓子パンの袋を開ける。
彼女は意外と頑固だ。
しかし、形はどうあれ、こうして保健室で昼休みを過ごしてくれているのだから素直と言えば素直だろう。
「橘先生、今日はお弁当じゃないんだ?」
「はい。たまにはパンが食べたくて…。」
「珍しいね。じゃあ、コーヒーでもいれるね。」
「ありがとうございます。」
彼女が“いじめ”にあっている事を、愛美先生は知らない。
言うつもりもない。
彼女はきっと…私にだから打ち明けてくれたのだと思う。
そんな彼女の気持ちを考えると、誰かに報告する気になどなれない。
しかし、愛美先生は気付いているのだと思う。
だからこそ、こうして彼女が保健室で過ごす事を快諾してくれた。
「あなたも飲む?」
愛美先生がそう優しく尋ねたが、彼女はコクリと小さくうなずくだけだ。