第5章 条件
スーツのポケットから携帯電話を取り出そうとした瞬間、コンコンコンとドアをノックする音がした。
「はい。どうぞ。」
「…失礼します。」
昼休みの保健室。
ドアを開け、現れたのは小松加奈だ。
「愛美先生は?」
「お手洗い。」
「ふーん。」
彼女は菓子パンと牛乳を片手に、ベッドへと腰掛ける。
テーブルと椅子があるのだから、そこで食べるよう注意したのだが、彼女は「ここの方が落ち着くから。」と言う事を聞かなかった。
昨日から、彼女にはこうして保健室で昼休みを過ごしてもらっている。
彼女から“いじめ”の被害を打ち明けられ、私なりに考えた事だ。
クラスで孤立している彼女にとっては、昼休みはとても苦痛な時間だろう。
理由は違えど、私も高校時代の昼休みはいつも一人だった。
騒音のような笑い声の中、一人で昼ご飯を食べる居心地の悪さは私も経験している。
「保健室で先生と昼ごはんなんて、笑われるじゃん。」と彼女は言ったが、笑いたい奴には笑わせておけばいい。
嫌いな奴とは極力同じ空間に居る事を避けるべきだ。