第2章 高校教師
「退学ですか?」
彼女はそうポツリとつぶやく。
このご時世、タバコで退学もあり得る話だろう。
退学が心配ならば、こんな場所でタバコを吸うなよと思うが、どうやら彼女はそういう訳でもなさそうだ。
「退学になりたいの?」
「………。」
「ポケットの物も出して。」
とくに悪びれる様子もなく、彼女は黙ったままポケットの中のタバコとライターを差し出してきた。
まるでこうなる事を望んでいたかのようだ。
この年代の若者が考える事など、私には全く理解出来なかった。
“自暴自棄”
その言葉だけでは片付けられない何かを心の奥に秘めている。
最も扱いづらい年頃だ。
「ここだと職員室の前の廊下から丸見えなの。
吸いたかったら、他の場所で吸いなさい。
これは預かっておくから。」
タバコとライターを受け取り、スーツのポケットへとしまう。
私の対応に彼女は驚いた表情を浮かべたが、とくに騒ぎ立てるような事でもない。
「早く帰りなさい。」と、私はその場を後にする。
相変わらず外の風は生ぬるく、私の心をわずかに苛立たせていた。