第2章 高校教師
屋上のドアを開けると、まるでそれを待っていたかのように彼女はこちらを向いていた。
「何してるの?」
すかさずそう問いただすが、黙りこくったままタバコを吹かし続けている。
こうして現れたのが私である事に驚いたのか、彼女は決して目を合わせようとはしない。
屋上でタバコを吸えば、大概飛んでやって来るのは生活指導の教師だろう。
そもそも彼女のクラスを担当していなかった私を、きっと彼女は知らなかったのだと思う。
「貸して。」
彼女の手から火のついたタバコを奪い取る。
意外にもすんなりと彼女はそれを手放した。
辺りに広がる苦味のある匂い。
清純な女子高生の制服には似つかわしくない匂いだ。
それは、普段タバコを吸う事のない私にとっては元恋人である亮太の匂いだった。
スーツに匂いが移るからと何度も注意したが、亮太は私の部屋でタバコを吸う事をやめてはくれなかった。
あんなにも嫌で仕方がなかったタバコの匂い。
それも今では亮太の記憶を蘇らせる呪いのような匂いになってしまった。