第4章 種
「ねぇ、先生。
俺の家で預かろうか?」
冗談めいた笑顔で佐久間さんはそう言った。
突然何を言い出すのかと驚いたが、頭を抱える私を和ませるために言った冗談だろう。
生き物を預かるという事は命を預かるという事だ。
簡単に引き受けたりするものではない。
「…冗談ですよね?」
「冗談じゃないよ。」
「だって…猫ですよ。生き物ですよ。」
「うん。俺の家、ペット禁止じゃないからさ。
ここにいるよりは安全じゃない?」
佐久間さんはひょうひょうとした顔で猫の額を撫でながらそう言った。
私からすれば願ってもない提案ではあるが「はい、そうしましょう。」と簡単に受け入れられるものではない。
当然だが、佐久間さんには佐久間さんの生活がある。
佐久間さんがどこでどんな生活をしているかは知らないが、子猫の世話をする時間などあるようには思えない。
都会の売れっ子美容師さん…きっと帰りも遅いに違いない。