第4章 種
何とか呼吸を整え、ベンチから立ち上がる。
その瞬間、どこからか動物の鳴き声が聞こえた。
キツネだろうか…いや、ここは東京の住宅街。
故郷の北国のように夜な夜なキツネが現れたりなどしない。
耳を澄まし、鳴き声の方向を探る。
か細い鳴き声ではあるが、それは猫の鳴き声のようだった。
一体どこで鳴いているのだろう。
今までこの辺りで野良猫を見た事などない。
遠くで鳴いているようにも聞こえるが、近くにも感じる。
辺りを見回すが、猫らしきものはどこにもいない。
ふと、以前にもこんな事があったような気がした。
デジャブとでも言うのだろうか…。
あれは確か小学2年の夏休み。
家の近所の公園で子犬を拾った。
あの日も、こんな風にどこからともなく犬の鳴き声が聞こえてきたのだ。
私は身体を屈め、ベンチの下を覗き見る。
そこには無造作にガムテープを貼られた段ボールが置かれていた。