第4章 種
彼女の言う“村瀬先生”とは、英語教師の村瀬直紀の事だろう。
私が赴任してきた3年前の春にはすでにいた。
歳は30歳前後、眼鏡を掛けた物静かそうな男だ。
もちろん、私も仕事上の付き合いはある。
顔を合わせれば挨拶もするし、そのまま当たり障りのない会話をする事もあった。
正直言って女子生徒と付き合うような教師にはとても見えない。
そもそも教師と生徒がなぜ交際に発展するのか…。
恋愛経験の少ない私に理解出来るはずもないのだが、一体何のきっかけでそうなるのだろう。
大前提として教師と生徒の恋愛は御法度だ。
それに加え、彼女はまだ16歳。
自分より一回り以上も離れている男と恋愛感情を持つなど考えられない。
いや、それを言うなら自分も同じだ。
私と佐久間さんの歳の差は20歳。
彼女達以上に離れている。
しかし私達は大人同士だ。
やはり彼女のケースとは違う。