第4章 種
「そんな怖い顔しないでよ。」
戸惑う私の隣から、彼女はゆっくりと立ち上がった。
スカートの埃を払い、屋上の手すりへともたれる。
その後ろ姿が泣いているように見えた。
そんな彼女に、私は何を言おう。
“私が力になるよ”
模範解答の言葉は、とても薄っぺらいものに感じた。
「…学校、辞めないでよね。」
「何で?」
「卒業してほしい。」
「別に一人くらい辞めたっていいじゃん。」
「ダメ。」
言いたいのはこんな事ではない。
どうして大切な時ほど言葉が出なくなるのだろう。
正直、事なかれ主義であった自分が、生徒の事でこんなにも悩む日が来るとは思ってもいなかった。
「辞めないから安心してよ。」
「本当?」
「うん。辞めない。
だって、私……………。」
大人びた表情を浮かべながら振り返った彼女。
そんな彼女が発した言葉に、私は返す言葉を完全に見失ってしまった。
彼女はきっと、私が思っていたよりも“大人”だったのだ。