第4章 種
「ねぇ、1年の飯田理沙って分かる?」
飲み終えたコーヒーの缶を地面に置き、彼女はそうポツリとつぶやいた。
聞き慣れない名前に、私は首を横へ振る。
こうして彼女と過ごすようになってから4ヶ月。
彼女の口から他の生徒の名前が出てきたのは初めての事だ。
「同じクラスの女子。」
「…その子がどうかしたの?」
「入学してすぐ、そいつの“元彼”に告られたの。
でも、興味無かったし断った。」
「そう…。」
「それからなんだよね。
教室入ったらみんな無視…みたいな。
まるで“空気”。
みんな、私が見えないみたいに振る舞うの。
昨日まで普通に話してた相手でさえも。
居づらくなって教室から出て行こうとしたら、飯田理沙が嬉しそうに笑ってた。
それ見て確信したんだ。コイツの仕業だって。」
冷めた口調で淡々と話す彼女の横顔に表情はなかった。
予想はしていたが、何とも腹立たしい。
この年頃にはよくありがちなトラブルの1つだが、“無視”というのは最も卑劣ないじめだ。