第4章 種
函館山の山頂は、思いのほか観光客の姿で賑わっていた。
日本人はもちろんの事、十年程前から急増したアジア系の観光客もカラフルなダウンを見にまとい、記念撮影に夢中だ。
大晦日の今日は、毎年恒例となっているカウントダウンイベントが行われるらしく、その準備に追われるスタッフの姿も目立つ。
…こんな事なら家に居た方が良かったか。
そんな事を思いながらも、観光客の間をすり抜け、展望台へと上る。
少し風が強いが、我慢出来ぬほどではない。
手すりにつかまりながら、眼下に広がる函館の街を見下ろした。
見慣れた景色。
私にとっては“当たり前だった”風景。
山々に囲まれた街は、まるで博物館に展示されている小さなジオラマ模型のようだ。
そんなジオラマ模型の上に、粉砂糖を散りばめたかのような雪が降り積もっている。
いつ見ても、美しいと思う。
それと同時に、自分の住んでいた世界がいかに狭く窮屈な物だったかを知る。
どちらにせよ、心奪われる故郷の風景に違いない。