第4章 種
本来の目的は別の場所だ。
そこまではロープウェイに乗る。
函館山の山頂、そこが今日の目的地だ。
地元の人などほとんど来ない。
そんな観光客しかいないような場所は、私にとってとても都合が良かった。
あまり知り合いには会いたくなかった。
子供の頃からこの性格のせいで友達は少ない方だ。
高校時代、いじめられていたという事はないが、苦手だと思う人はたくさんいた。
女子校という特殊な環境のせいもあるが、正直言ってグループを作りたがる騒がしい女は嫌いだった。
休み時間はいつも本を眺めていた。
“読んでいた”ではなく、ただ“眺めていた”。
休み時間の教室はとても騒がしく、読書など出来たものではなかった。
話し掛ける相手もいなければ、話し掛けてくる相手もいない。
しかし、卒業した途端に関わりなど全くなかったクラスメイトから「橘さん、久しぶり。元気?」などと声を掛けられるようになった。
次に続く言葉は「仕事は?」「彼氏は?」「結婚は?」「子供は?」
正直、自分の近況はあまり話したくはない。