第4章 種
店の中へは入らずに、もと来た道を引き返す。
母の恋人とは未だ面識は無い。
それどころか、母は恋人がいる事を打ち明けてはくれない。
私が傷付くとでも思っているのだろうか。
“言う必要が無いから言わない”のかもしれないが、それはそれで傷付く。
正直、私が家を出さえすれば直ぐにでも再婚すると思っていた。
再婚とまではいかなくても、一緒に暮らす位はするだろうと思っていた。
しかし、母は今も一人のままだ。
家にも男が出入りしているような形跡はない。
私がいるせいで…母はいつまで経っても自由になれないのだろうか。
そんな事すら考えてしまう。
函館と東京。
ここまで物理的な距離をとってみても、母からすれば私はたった一人の娘であり、たった一つの“悩みの種”なのだろう。