第4章 種
それが母の恋人である事を知ったのは、私が高校1年生の時だった。
コンビニのアルバイトを終え、喫茶店へと母を迎えにやって来た日の事だ。
その日はちょうど母の誕生日。
母には「9時にバイトが終わる」とだけ伝えていた。
ほんのサプライズのつもりだった。
喫茶店が閉店する午後8時。
プレゼントに買った白いブラウスを抱え、喫茶店へと向かった。
閉店後の喫茶店の前には一台の車が止まっていた。
運転席にいたのは見知らぬ男。
薄暗い店内から現れた母は、そのまま車の助手席へと乗り込んだ。
嬉しそうな母の顔を見て、その男に特別な感情があるのだとすぐに理解できた。
ショックなどではなかった。
…ほんの少しの焼きもち。
その日、私のアルバイトが終わる時間に合わせ、母は帰宅した。
たった1時間のデート。
私がいなければ、一晩を共に過ごす事も出来たであろう。
私がいなければ…。
初めて感じた母に対する後ろめたさを胸に抱き、私はプレゼントである白いブラウスを手渡した。