第4章 種
函館へ帰って来たのは昨日の夕方の事だった。
1日遅れのバースデーケーキを母と二人で食べ、秋に旅行で行ったという温泉の話を聞かされた。
客室の露天風呂が気持ち良かっただの、料理が美味しかっただのと、まるで修学旅行にでも行って来た女子高生の如く楽しい思い出話は続いた。
「誰と行ったの?」とは聞かない。
母もあえて言わない。
「うん。そうなんだ。」と、私はただ相づちをうつだけだ。
市電を降り、電停からは坂道を上る。
雪道に足を取られぬよう、ゆっくりと歩く。
この辺りもずいぶんと変わってしまった。
木々の隙間から見えている大きな建物も、数年前からは廃墟となっている。
神社の前を通り過ぎ、目的の場所は目の前だ。
しかし、今日は少し遠回りをする。
教会群がある狭い道の向こう側。
母の営む喫茶店へと向かった。