第4章 種
約束の時間まではまだあった。
コーヒーカップを洗い、身支度を整える。
今日は運良く雲ひとつない青空だ。
こんな日は、カメラを持って出掛けたくなった。
東京で暮らすようになってからは、すっかりと出不精になってしまったが、私はもともと自然が好きだ。
とくに親しい友達がいたわけではない私の高校時代は、学校とコンビニでのアルバイト、そして風景の写真を撮りに出掛ける事くらいなものだった。
一度だけ、汽車に揺られて羊蹄山を撮りに出掛けた事もあったのだから、あの頃はそれなりに夢中だったのかもしれない。
厚手のコートを羽織り、家を出る。
北海道の中でも比較的暖かいこの街でも、東京と比べれば極寒の地だ。
今年は雪が多いのだろうか。
路肩にはすでに雪の山が出来ていた。
市電に揺られ、元町方面へと向かう。
車窓からの景色は、私がここで暮らしていた数年前とはずいぶん変わってしまった。
いくつも店がなくなり、更地になってしまった場所もある。
こうして年に一度故郷へ戻っては、記憶の中の風景を上書きしていくのだ。