第2章 高校教師
「橘先生。」
そう呼ばれ、振り返る。
そこには笑顔で駆け寄ってくる養護教諭の愛美先生の姿があった。
「橘先生、明日の夜空いてる?」
「明日の夜…ですか?」
「そうなの。
橘先生に会わせたい人がいて。」
「私はちょっと、そういうのは…。」
「そっか…ごめんね。」と、愛美先生は残念そうな表情を浮かべた。
愛美先生は私より一回り年上だが、毎日綺麗に化粧をし、艶のある髪をまとめていて、素敵な大人の女性といった雰囲気だ。
もちろん、生まれも育ちもこの東京だ。
私とは住む世界が違う人間。
そう思い、どこか距離を置いて付き合うようになっていた。
そもそも職場の同僚は友達ではない。
付かず離れず、必要最低限の付き合い。
そうやって、今まで上手くやってきたのだ。
「気が変わったら言ってね。」と、愛美先生は優しく微笑む。
「はい。」と、うなずいてみせるが、気が変わる事などない。
もともと私は男性が苦手なのだ。