第10章 バトル勃発、始まる奇妙な関係
「…少しは落ち着いた?」
「……うん」
部屋に通され、出された麦茶を飲んで息をつく。
美鈴は私が落ち着くまで、理由も聞かずただ隣に腰を下ろしていた。
「…いきなり来てごめん」
「それはもういいって。…まぁあんたが泣きながら電話してきた時は驚いたけど」
「ぅ…」
今になって急に恥ずかしくなる。
あの後行く宛も無かった私は、衝動的に彼女に電話を掛けたのだ。
すぐ家に来るよう言われ、その厚意に甘えて今に至る。
「…それで?一体何があったの?」
「………」
ここまで来ておいて話さない訳にもいかないだろう。
私は今までの事…そしてさっきあった出来事を、洗いざらい全て彼女に打ち明けた。
「なるほどねぇ…」
最後まで黙って話を聞いてくれた彼女は、テーブルに頬杖をついてそう呟く。
これから私はどうすればいいんだろう…
さっきは勢いで2人にあんな事を言ってしまったが、皐月くんとはお店で顔を合わせるし、リアンくんだってあれで納得してくれたとは思えない。
彼らと顔を合わせれば、また自分の心が揺らいでしまいそうで…
「桜子はさ…ホントにそれでいいの?」
「…え……?」
「桜子の気持ちも解らない訳じゃないけど……結局それって2人の気持ちから逃げたって事でしょ?」
「……、」
「あんたの場合は、"付き合うのやめた"じゃなくて、"考えるのやめた"って事じゃない?」
「わ、私はそんなつもりじゃ…」
「じゃあ聞くけど……ちゃんと2人に好きだって言った?」
「…それは……」
…言ってない。
というより、『2人とも好き』なんてそんな狡い事言える訳がない。
「…やっぱり言ってないんだ?」
「だって…そんな事……」
「桜子の気持ちを聞いてどう思うかは彼ら次第でしょ?」
「……、」
「納得出来ないって言うかもしれないし、あんたを軽蔑するかもしれない」
「っ…」
「でも…自分の気持ちを隠すのはフェアじゃないと思うけどな…私は」
「美鈴…」
確かに彼女の言う通りだ。
私は心のどこかで彼らに嫌われたくないと思っていた。
2人とも好きだなんて言ったらきっと軽蔑される…いい加減な女だって。
2人を傷付けたくないと言いながら、私は自分の身を守りたかっただけなのかもしれない。
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