第9章 酒は飲んでも呑まれるな
「今お水持ってきます」
うつらうつらしている桜子さんをソファーに座らせ、キッチンへ向かう。
冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターをグラスに移し替えた俺は、それを持って彼女の元へ戻った。
「はい、ちゃんと飲んで下さいね。じゃないと明日辛いですから」
「ん…、ありがと……」
一応俺の声は届いているようで、差し出したグラスに手を伸ばしてくる彼女。
けれど焦点が合っていないのか、彼女は上手くグラスを受け取れずそれを取り落としてしまった。
「きゃっ…」
「…!大丈夫ですか!?」
ゴロンと床を転がるグラス。
当然零れた水は彼女の体を濡らしてしまって…
「っ…」
ドキリと心臓が跳ねる。
水が掛かったせいで、彼女が着ていたブラウスはすっかり透けてしまっていた。
何か拭く物を…と思ったが、その意思とは反対に俺の中で燻っていた欲望に火が点く。
――彼女に触れたい…
あの誕生日での一件以来、俺は桜子さんに触れていなかった。
ここひと月程、彼女の様子がおかしかったからだ。
本人から理由を聞いた訳ではなかったが、きっと"あの人"の事で悩んでいたんだと思う。
あの、『リアン』という男の人の事で…
そしてある日を境に、彼女は一段と綺麗で艶っぽくなった気がした。
それと同時に俺に対しては妙によそよそしく接するようになって…
(やっぱりあの人と付き合う事にしたんだろうか…)
臆病な俺は、彼女自身に問い質す事が出来ずにいた。
もしそうだとしたら、俺はきっとまた彼女を困らせてしまうから…
「桜子さん…早く脱がないと風邪引いちゃいますよ?」
彼女の隣に腰を下ろし、その襟元に手を伸ばす。
ダメだと解っていてもこの欲望は抑えきれない。
「皐月くっ…」
酔っているとはいえ流石に焦ったのか、彼女が俺の手を掴み弱々しく抵抗してきた。
「今の桜子さんじゃ上手くボタン外せないでしょう?俺が代わりに脱がせてあげますから…」
「っ…」
耳元でそう囁き、ブラウスのボタンに指を掛ける。
力の入らない今の彼女では、抵抗らしい抵抗も出来ないようだった。
「………」
ひとつひとつ丁寧にボタンを外していく。
現れた白い肌と淡いブルーの下着に、思わずゴクリと喉を鳴らしてしまいそうだった。
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