第2章 出会い
(何だったの、今の…)
息を切らせて走りながら、桜子はたった今起こった出来事を頭の中で反復していた。
指とは言え、初対面の見知らぬ美少年にキスをされてしまった。
見た目も名前も外国人のようだったし、単なる挨拶のつもりだったのだろうか?
(それにしては日本語上手かったけど…)
とにかくさっきの事は忘れようと、桜子は急いで店へ戻った。
するとそこに…
「…まいったな」
「…?」
店のすぐ傍で、困ったように溜め息をついている男を見つけた。
屈んでいる彼の脇には本人の物と思われる自転車が停めてある。
ひょっとしてタイヤがパンクでもしてしまったのだろうか?
「あの…どうかされましたか?」
店の横で困っている人間を放っておける訳もなく、桜子は迷わず声を掛けた。
それに驚いた男はハッとして立ち上がる。
屈んでいる時は分からなかったが、かなり背の高い青年だ。
「……、」
「…?」
こちらを見つめるばかりで言葉を発しない青年。
桜子が「あのー…」と困ったようにもう一度声を掛けると、彼はようやく理由を話し始めた。
「あっ、すみません……タイヤがパンクしてしまって…」
予想通りだった。
桜子は彼にそこで待つよう告げ、急いで店の中へ入る。
叔父だったら、応急処置の仕方を知っているかもしれない。
「ああ、困ってるのは君か」
少しして青年の元にやって来た叔父の手には、パンクの応急処置に使える修理剤があった。
幸い空いた穴は小さく、叔父いわく修理剤で何とかなるレベルという事だ。
「よし、これで一先ずは大丈夫だろう。けどこれは飽くまでも応急処置だからね、早めにちゃんと修理してもらいなさい」
「はい、ありがとうございます!」
青年はその大きな体を折り曲げて丁寧にお礼を言った。
「あの…俺、神浦皐月って言います。今度改めてお礼をしたいんですが…」
「はははっ!そんな事気にしなくていいよ」
「ですが…」
「だったら今度、コーヒーでも飲みに来てくれないか?うちの可愛い姪に接客させてもらうよ」
「もう、叔父さん…」
「叔父さんじゃなくてマスターだろ?」
そんなやり取りをする2人にもう一度お礼を言い、彼は颯爽と自転車で走り去った…
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