第2章 出会い
(…綺麗な顔……)
静かに寝息を立てている彼の様子に一先ず安堵した桜子は、じっとその顔を見つめた。
こんな所で一体何をしているのだろう?
外で昼寝(とは言えまだ午前中だが)をするにはまだまだ肌寒い。
桜子がそんな事を考えていると、2人の間を突風が吹き抜けた。
「きゃっ…」
思わず捲れ上がったスカートを押さえた拍子に、持っていた荷物を落としてしまう。
それがちょうど彼の足に当たった。
「ん……」
その衝撃で、それまで眠っていた彼が目を覚ます。
ゆっくりと開かれた瞳は、透き通るような綺麗なブルーだった。
「………」
その端正な顔に言葉を失ってしまう。
お互い黙って見つめ合う事数秒……桜子はハッと我に返り、慌てて荷物を手にした。
「ご、ごめんなさい!具合いでも悪いんじゃないかと思って…」
「………」
彼は返事をする事なく、ただ桜子を見つめている。
その視線に耐えられなくなった彼女は、そそくさとその場を立ち去ろうとした。
「…待って」
「っ!」
不意に掴まれた腕。
彼は桜子の腕を掴んだまま立ち上がった。
「アンタ、名前は?」
「え……?」
外見からは想像できなかった流暢な日本語。
予想外の質問に桜子は言葉を詰まらせる。
「…俺はリアン。アンタは?」
「……、桜子…です」
名乗るのを躊躇ったが、向こうが名乗ってきた以上無視する訳にもいかない。
掴まれていた腕を引こうとすると、反対にその腕を引っ張られてしまった。
そして…
――チュッ…
「…!」
一瞬何が起こったのか解らなかった。
引っ張られた腕…その指先にキスをされたのだと理解したのはそれから数秒後の事だ。
「フッ……顔真っ赤」
「っ…」
そう笑われ、ようやく我に返る。
自分はからかわれているのだろうか?
桜子は何も言えずに彼の腕を振り払うと、逃げるようにその場を後にした。
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