第2章 出会い
*side リアン*
目を覚ましても、俺はしばらく夢の中にいるような気分だった。
桜の花びらが舞う中、俺をじっと見つめていた知らない女。
…純粋に綺麗だと思った。
彼女は俺が眠っているのではなく、倒れているのではないかと心配になって近づいてきたらしい。
名前を聞きその指先にキスをすれば、彼女は頬を真っ赤に染めていた。
父がイギリス人の俺にとってキスは挨拶みたいなものだが、俺だって誰彼構わずそんな事をする訳じゃない。
一目見て気に入ったから。
"一目惚れ"なんて安っぽい言葉は使いたくないが、俺はそれに代わる相応しい言葉を知らない。
「…明日から楽しくなりそうだな」
この退屈でつまらない日常も…
誰に言うでもなく、俺はひらひらと舞う花びらを見上げながら口元を綻ばせた…
*side 皐月*
(……夢みたいだ)
ずっと憧れていたあの人と話が出来るなんて…
彼女の事は少し前から知っていた。
けれど声を掛けるなんて大それた事は出来ず、ただ遠くから眺めるのが関の山で。
だから今日、彼女から声を掛けられた時は驚いて心臓が止まるかと思った。
あの店の前で自転車のタイヤがパンクしたのは本当に偶然だ。
今まで一度も信じた事のなかった神様に、今日だけは感謝してしまう。
「…明日槍でも降って来なきゃいいけど」
あまりにも有り得ない事が起きたせいか、我ながら馬鹿な事を考えてしまう。
今度はお礼に行くという口実で、堂々とあの喫茶店に行ける…
そう考えると、俺は胸の高鳴りを抑える事が出来なかった…
(…夢ならどうか覚めないでほしい)
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