第8章 越えた一線
「とにかく帰って!」
「…アンタと話すまで帰らない」
「………」
「…いいの?近所のヤツらに変な目で見られるんじゃね?」
「っ…」
(今度は脅すつもり…?)
けれどこのままでは本当に居座られそうだ。
私は少し悩んだ後、結局ドアを開ける事にした。
「きゃっ…」
ドアを開けた瞬間、中へ入ってきた彼にぎゅっと抱き締められる。
「ちょ、ちょっと…!」
「…昼間はごめん」
「……、」
珍しくしおらしい態度の彼。
一気に毒気を抜かれ、すっかり抵抗するのも忘れてしまった。
「本当はアンタに会うの悩んだけど…二階堂からアンタの事聞いたら、居ても立っても居られなくなって…」
「……、二階堂さんから…?」
「ああ……アンタが泣いてたって…」
「っ…」
二階堂さん、なんて事を…
「俺も誤解されたままは嫌だし、とにかく話を聞いてほしかった…」
「………」
それから私たちは部屋の奥へ移動した。
彼に座るよう促し、お茶を淹れる。
「…二階堂からどこまで聞いてる?」
「どこまでって…。リアンくんがお父さんと喧嘩して…それから様子がおかしいって、それくらいしか聞いてないけど…」
「………」
そう答えると、彼は溜め息をついた後初めから全てを話してくれた。
「この間親父に呼び出されて実家に帰ったら…いきなり見合いの話を持ち掛けられたんだ」
「…えっ…、お見合い…?だってリアンくん、まだ19でしょ?」
「親父にとっては"もう19"って感じらしいけどな。どっかの会社の社長令嬢と一度会えって言ってきてさ」
「……、」
「けど俺は断った…俺には心に決めた相手がいるっつって。…勿論アンタの事」
「っ…」
「そしたら親父のヤツ…相手の家柄だの学歴だの聞いてきやがった。そんなの俺には取るに足らない事だって言ったら、急にキレだして…そのまま口論になったんだよ」
「………」
予想はしていたが、やはり彼の家はそういう事に厳しいらしい。
まぁ当然と言えば当然かもしれないけれど。
「それから親父は、部下を使って俺の事を探り出したんだ。俺が言った『心に決めた相手』っつーのを突き止める為にな」
「……、」
「このままじゃアンタにも迷惑掛かるし…ほとぼりが冷めるまで、アンタに接触するのはやめようと思ったんだよ」
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