第8章 越えた一線
――もう会わない…
そう口にした瞬間、突然溢れ出した涙が頬を伝った。
(私…なんで泣いてるの……?)
自分でも訳が解らずすぐに涙を拭ったが、一度溢れ出したそれは止まる事を知らない。
きっと私は心の中で期待していたのだ…二階堂さんの言っていた通り、リアンくんは私になら打ち明けてくれるって…
でもそれは単なる私の自惚れだった。
もう彼の中では、私なんて取るに足らない存在なのだろう。
『相沢様?』
私が泣いている事に気付いたのか、二階堂さんの少し焦った声が聞こえる。
今どこにいるのかと尋ねられたが、私はそれに答えず「ごめんなさい」とだけ告げて電話を切った。
(これでいいんだ…)
今度こそ何の未練も無く彼の事を忘れられる。
もう彼に振り回される事だってない。
それなのに…
(どうしてこんなに胸が苦しいんだろう…)
「ハァ…」
その夜は何も喉を通らず、シャワーだけ浴びてベッドに潜り込んだ。
あの後もう一度二階堂さんから電話が掛かってきたが、それには出ず携帯の電源を切る。
(なんでこんな失恋したみたいな気分になってるの私…)
リアンくんの事を忘れようとすればする程、彼の事ばかり考えてしまう。
(もうやだ…)
心の中でそうぼやいて布団を被った瞬間、突然インターフォンが鳴った。
「…!」
時計を見ればもうすぐ23時…こんな遅くに一体誰だろう…
ベッドから下り、恐る恐る玄関へ向かう。
そうしてドアスコープを覗き込むと…
「っ…」
私は一瞬目を疑った。
ドアの向こうにいたのはリアンくんで…
(どうして…)
昼間は私を追い返したくせに、なんでリアンくんがここにいるの…?
「なぁ…そこにいるんだろ?」
「…!」
「アンタと話がしたい……開けて」
「………」
ドアを開けない私にそう訴えてくる彼。
相変わらず勝手だ…私を突き放したのは彼の方なのに…
「…帰って……話す事なんて無い」
「アンタに無くても俺にはある」
「勝手な事ばっかり言わないでよ…もう会わないって言ったのはリアンくんでしょう?」
「…誰もそんな事言ってねーだろ。アンタが勝手に勘違いしただけだ」
「なっ…」
今度はこっちのせいにする気…?
何だかだんだん腹が立ってきた。
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