第7章 揺れる心
「私はこう見えても日本育ちですから、日本語で大丈夫ですよ」
「……、」
目の前の男性は流暢な日本語でそう言った。
私はもう一度頭を下げ、すぐにタオルを持ってくると彼に告げる。
けれど…
「お気遣いは有り難いのですが、今は急いでいるので結構です」
「で、でも…」
幸い掛けてしまった水の量は大した事なかったが、それでも私の不注意で高そうなスーツを濡らしてしまったのだ、何もお詫びをしない訳にはいかない。
私がどうしようか困惑していると、彼はクスリと笑って私の手を取った。
「それでは…今度宜しければ、私とお食事でもして頂けませんか?」
「…え……?」
(それってどういう…)
「おっと…もう少しお話をしていたいところなのですが、本当に時間が無いので失礼致します」
「……、」
「それではまた」
「…!」
そう言って彼は私の指先にキスをした。
驚いている私を見て微笑んだ後、足早にその場から立ち去っていく。
(何今の人…)
初めてリアンくんに会った時の事を思い出した。
西洋人(かは分からないが)はみんなああやって挨拶するのが普通なのだろうか…
そう言えばどことなくリアンくんに似ていたような気もするが…
(…って、何考えてるの私)
金髪白人のイケメンが、みんなリアンくんに見えるなんて重症だ。
(もう彼の事は忘れよう…)
私は心にそう決め、その日は一日仕事に精を出した。
その日の夜…
♪~♪♪~
「…?」
携帯に知らない番号から電話が掛かってきた。
出ようか出まいか悩んだ末、恐る恐る通話ボタンを押してみる。
「も、もしもし…」
『夜分遅くに失礼致します。リアン様の専属執事、二階堂でございます』
「えっ…二階堂さん?」
あまりに意外過ぎる相手で驚いてしまった。
どうして二階堂さんが…?
『突然申し訳ありません。万が一の時の為にと、相沢様の携帯番号はリアン様から伺っておりました』
「は、はぁ…」
万が一の時の為って…リアンくんに何かあったのかな…
『不躾な質問、お許し下さい。最近リアン様とご連絡などは取られておりますか?』
「…い、いえ……取ってませんけど…」
というより、向こうからの返信は一切無い。
私もあれ以来メールや電話もしていないので、完全に音信不通状態なのだが…
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