第7章 揺れる心
「ハァ…」
家に帰り、荷物を放ってベッドに倒れ込む。
先程の光景が頭に焼き付いて離れない。
このままもう…リアンくんとは会えなくなるのかな…
ふとそんな考えが頭を過った。
(何よ…私の事好きとか言ってたくせに)
やっぱり私はからかわれていただけなのだろうか。
でも…1週間前会った時の彼の悲しそうな顔が今でも忘れられない。
本当はあの時何か私に伝えたい事があったんじゃ…
それとも私は、ただそう思いたいだけなのかな…
「あぁもう最悪…」
気分転換に買い物へ出たはずなのに、気分は余計に沈んでしまった。
(さっさとお風呂に入って今日は寝ちゃお…)
それから数日後…
「桜子ちゃん、悪いんだけど店の前に水撒いといてくれるかな」
「はーい」
早いもので、6月ももう半ばに差し掛かる。
今日は6月としては記録的な暑さで、朝からぐんぐん気温が上がっていた。
少しでも涼しくなるようにと叔父さんから水撒きをお願いされた私は、バケツと柄杓を持って店の外へ出た。
(リアンくん…元気かな)
その後も彼とは連絡を取っていなかった。
本当にもう私の事なんかどうでもよくなってしまったのかもしれない。
それならそれで別にいいのだけれど…
(人の事散々振り回したくせに、自分はあーんな可愛い彼女作っちゃって…ホントにイイ気なもんだよね)
心の中で悪態をつきながら水を撒く。
でもこれで良かったのだ。
やっぱりあれはリアンくんの一時の気の迷いで、そもそも愛人の子とは言え御曹子の彼と一般人の私では住む世界も違うし釣り合わない。
(これで悩みの種も1つ無くなるじゃない)
無理矢理にでもそう思い込もうとした。
そうしてもう一度水を撒いた時…
「つっ…」
「…!」
私は目の前の通行人に思い切り水を掛けてしまった。
すぐに「ごめんなさい!」と謝ろうとしたが、相手の顔を見て思わず言葉を失う。
(リアンくん…?)
喉元まで出そうだったその名を寸でのところで飲み込む。
目の前の人物は確かに金髪の白人だったが、よく見ればリアンくんじゃない。
彼に劣らず綺麗な顔立ちをした人だが、スーツを着た会社員風の男性だった。
「すみません!あ、いや…えーと…I'm sorry!」
私が慌ててそう言い直すと、その人は何故かクスクス笑った。
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