第7章 揺れる心
(2人の事を好きでもいい…?)
正直呆れられるかと思ったが、美鈴から出た言葉は意外なものだった。
「でも…それは狡いっていうか……2人にも悪いし…」
「桜子は相変わらず真面目だねー」
「そ、そんな事…」
「人の気持ちなんてそう簡単に割り切れないよ」
「……、」
そう話す彼女の言葉には妙な説得力がある。
彼女は食後のコーヒーを飲むと、懐かしむように思い出話を始めた。
「実はね…誰にも話した事はなかったんだけど…。私二十歳の頃……奥さんのいる人と付き合ってたの」
「…えっ……」
「あーでもね、これは言い訳になっちゃうかもしれないけど…付き合い始めた時は、相手の人に奥さんがいるなんて知らなかったんだよ?…付き合って3ヶ月くらいの頃かな?相手の人が実は結婚してるって事に気付いたのは」
「……、それで…どうしたの?」
「最初は勿論、すぐに別れようと思った…。でも…あの頃の私は周りが見えないくらいその人の事が好きで…。年上だから包容力もあったし、私のワガママもよく聞いてくれたし…」
「………」
「イケナイ事をしてるっていう自覚はあったけど、自分の気持ちは抑えられなくて…。結局その後半年くらいはズルズルと関係を続けちゃったんだよね」
「…でも…そんなに好きだった人とどうやって別れたの?」
そう尋ねると、彼女は更にバツの悪そうな顔をする。
「私…ダメだと思いながらも、ある日その人の携帯を見ちゃったの。そしたら…」
「…そしたら?」
「奥さんとのメールのやり取りを見て…2人の間にもうすぐ子供が生まれるって知ったんだ」
「……、」
「それでね…やっぱりこのままじゃいけないって、私から別れを切り出したの」
「美鈴…」
「本当はあの時桜子に相談しようかなって思ったんだけど……あんたに軽蔑されるのが怖くて」
「そんなっ…軽蔑なんてしないよ」
「…そうだよね。でもあの頃の私はホントに余裕が無くて、何かとマイナス思考だったからなぁ」
そう言って彼女は苦笑いした。
「あっ、でもね…今は流石にもう吹っ切れてるから。新しい彼氏も出来てラブラブだし?」
「うん…それなら良かった」
「だから桜子も遠慮せず私に相談してね?何があっても、私はあんたの味方だから」
「美鈴…」
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