第2章 出会い
「朝から悪いな、桜子ちゃん」
「ううん、気にしないで叔父さん」
「コラ。店では叔父さんじゃなくて、"マスター"と呼ぶようにいつも言ってるだろ」
「はいはい、ごめんなさい。じゃあ行ってくるね」
「ああ、頼んだよ」
叔父から渡されたメモを手にした桜子は、彼に手を振って店を出た。
叔父であり、自分の雇い主でもある彼に頼まれたのはちょっとしたおつかいだ。
発注したはずの食材が手違いで届いておらず、開店までに買ってきてほしいという事だった。
(開店まであと1時間……急がなくちゃ)
桜子が叔父の経営する喫茶店で働き始めて早4年。
元々は大学に通いながらアルバイトとして働かせてもらっていたが、大学を卒業したと同時に正式に雇ってもらった。
叔父の喫茶店で働く事は、桜子の小さい頃からの夢だったのだ。
落ち着いた雰囲気…アンティーク調の家具が飾られた上品な店内。
両親が共働きだった桜子は、幼い頃時々叔父のいるこの場所に預けられていた事もあり、その頃からずっと将来はここで働きたいと思っていた。
本当は高校を卒業してすぐに就職したかったが、大学を出てからでも遅くはないという叔父の説得を受け、この春ようやく正式に雇ってもらったのだ。
(うぅ…結構重い……)
スーパーで買い物を終えた桜子は、両手に袋を提げて歩く。
ふとその目の前に、ひらひらと花びらが舞った。
「ぁ……」
風に煽られて舞っていたのは桜の花びら。
今年はバタバタと忙しくしていたせいで花見などしていなかったが、もうそんな時期だったかと改めて桜の木に目をやる。
(…あれ?)
桜子は思わず目を瞠った。
桜の木の下…その根元に人間の脚のようなものが見える。
こちらからは脚しか見えないが、その人物は桜の木を背に寄り掛かって座っているようだ。
「………」
桜子は一瞬悩んだ後、その人物に恐る恐る近付いてみた。
具合いが悪くて休んでいるのだとしたら心配だ。
(…まさか死んでる…って事はないよね?)
そんな恐ろしい事を考えながらその顔を覗き込む。
「……、」
そこにいたのは、絵に描いたような美少年だった。
綺麗な金髪に白い肌…目は閉じられており、長い睫毛がその綺麗な肌に影を作っている。
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