第6章 春の嵐
「それじゃあ俺もシャワー浴びてきますね」
そう言って皐月くんはバスルームへ消えた。
(平常心平常心…)
こうなったのは飽くまでもハプニングであって、仕方のない事なんだから…
そう何度も自分に言い聞かせる。
私は気を紛らわす為、テレビを点けて皐月くんが戻ってくるのを待った。
「今日はすみませんでした」
バスルームから出てきた彼が浮かない顔でそう言う。
「…?何が?」
「まさかこんな事になるなんて…」
「別に皐月くんのせいじゃないでしょ?」
「それはそうですけど…」
「謝らないで?今日は誘ってくれて嬉しかったし…。それに遊園地もすごく楽しかった」
「桜子さん…」
「あっ、そーだ」
それでもまだバツの悪そうな顔をしている彼を元気づける為、私は敢えて話題を変えた。
「まだちゃんと言ってなかったよね。お誕生日おめでとう」
「……、」
「実はまだプレゼント用意出来てなくて…。せっかくなら皐月くん本人に聞いてからの方がいいかなって思ったんだけど…。皐月くん、何か欲しい物ある?」
「そんな、プレゼントだなんて…。俺、今日は桜子さんにデートしてもらっただけで十分ですから」
「……、」
改めてそう言われると何だか照れる。
確かにデートには変わりないけれど…
「んー…でも皐月くんにはお店の事で色々お世話になってるし…。実は叔父さんとも何かプレゼントしたいねって話してたところなの」
「マスターが…?」
「うん。でもよく考えたら、皐月くんの趣味とか好きな物とか知らないなぁと思って」
「………」
私がそこまで言うと、彼は急に黙ってしまった。
「…皐月くん?」と声を掛ければ、不意に腕を引かれ抱き寄せられる。
「わっ…!」
「…俺の好きなものなら1つしかありませんよ?」
「え…?」
「いや…物じゃないな。俺が今一番欲しいのは、桜子さんですから」
「っ…」
頭上から聞こえてきたどこか熱っぽい声に、思わずピキンと体が固まった。
あまりにもストレート過ぎる…
「あ、あの…皐月くん……」
「すみません…また困らせちゃいましたね」
そう言って彼は一旦私の体を離した。
その表情がどこか切なげで、きゅうっと胸が締め付けられる。
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