第6章 春の嵐
「桜子さん、先にシャワー使って下さい」
「で、でも…」
「それとも一緒に入ります?」
「っ…、お言葉に甘えて先に使わせてもらうね!」
そう言って私はバスルームへ駆け込んだ。
(どうしてこんな事になったんだっけ…)
遡る事、数日前…
「桜子さん…今度良かったら、一緒に遊園地へ行ってもらえませんか?」
皐月くんにそう誘われた。
詳しく話を聞けば、5月5日は皐月くんの誕生日だそうで。
この間施設へ行った時、子供たちから誕生日プレゼントと称してテーマパークの無料チケットを貰ったらしい。
是非、私と行くようにと…
「すみません…子供たち、桜子さんの事すっかり俺の彼女だと思い込んでて…」
「……、」
そう言えばこの間、否定しないで帰ってきちゃったっけ…
「もし迷惑ならいいんですけど……」
「そんな事ないよ。私も遊園地なんて久しぶりだし、子供たちの気持ちも嬉しいし」
「じゃあ…」
「うん、今度行ってみようか」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
そんな訳で、私たちは皐月くんの誕生日である祝日にそのテーマパークへ行く事になった。
ただそれだけだったはずなのに…
(どうしよう…)
雨ですっかり濡れてしまった服を脱ぎながら思案する。
皐月くんと遊園地で過ごした時間は本当に楽しかった。
まるで学生時代に戻ったみたいで…
そこまでは良かった。
けれど夕方から突然天気が崩れ、私たちはゲリラ豪雨に遭ったのだ。
電車を含め交通機関はほぼ麻痺。
ここまで電車で1時間以上揺られてきた私たちは帰る事が出来ずにいた。
結局ダメ元でビジネスホテルを訪れてみたが、運良くキャンセルが出たという事で部屋を借りる事が出来、今に至る。
(ベッド…1つしか無かったよね……)
ダブルの部屋しか取れなかったのだから当然だが、今更ながら緊張してきた。
そう感じているのは自分だけかもしれないけれど…
「お、お待たせ…」
ホテル近くのコンビニで買った下着と、部屋に備え付けてあった寝巻きを身に付け部屋へ戻る。
皐月くんは濡れた服を乾かす為か、上半身裸の状態でソファに腰掛けていた。
初めて見る彼のその姿にドキリとする。
ガタイが良いとは思っていたが、均整の取れたその体に思わず見とれてしまいそうだ。
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